外注費と給与の違いは?判断基準と注意点を紹介
会社の業務を外部の方に依頼して、対価を支払をする場合、税務上「外注費」とするか「給与」とするかで違いが生じます。このため、税務調査で争われることも多いです。
外注と給与は支払内容の性質が似ており、定義が明確になっておらず、判断に迷うことが多くあります。このコラムでは、外注と給与では何が違うのか、両者の判断基準と注意点をご紹介します。
外注費と給与の違い
外注費と給与の取り扱いの違いは、主に以下のとおりです。
外注 | 給与 | |
消費税の仕入税額控除 | 対象 | 対象ではない |
源泉所得税 | 基本は対象外。対象となる報酬は限られている。 | 対象 |
社会保険料加入義務 | なし | あり |
それぞれご説明します。
- 消費税
外注費は消費税の仕入税額控除の対象です。つまり、外注に支払った分は消費税部分を消費税の納付金額から差し引くことができます。
一方で給与は、消費税の仕入税額控除の対象ではありません。
例えば、売上が110万円(税込)、外注費が44万円(税込)であった場合、消費税は10万円-4万円=6万円の納付になります。もし外注ではなく44万円が給与であると判断されれば、10万円がそのまま消費税の納付金額です。同じ金額を支払うのであれば、外注費として支払った方が消費税の納付金額は少なくて済みます。
- 源泉所得税
給与は、源泉所得税を差し引いて支払う必要があります。そして会社は預かった源泉所得税を税務署に納付します。
一方で外注費を支払う場合、原稿料や講演料など、源泉所得税の対象となる報酬は限られており(国税庁タックスアンサーNo.2792参照)、基本的には差し引く必要はありません。
源泉所得税は、会社にとって「損得」はありません。しかし、給与はすべて源泉所得税の対象になるため、事務手続きがかなり増えます。
- 社会保険料
給与の支払対象者は、社会保険料の加入義務があります。一方で外注先は、加入義務はありません。
会社側からみたら、給与の場合は社会保険事務手続きが増え、かつ会社負担分を負担する必要もあります。
このような事情から、会社側としてはなるべく「外注費として処理したい」と考えるケースが多いですが、実態が外注費ではないと税務調査で指摘されるリスクが高まります。この判断基準を、次の項目でご紹介していきます。
実務上の判断基準
一般的には、外注と給与では契約形態が異なります。
- 外注→請負契約または業務委託契約
- 給与→雇用契約
請負契約は、依頼主が仕事を依頼し、外注先はその仕事を実施した結果に対して報酬をもらう契約です。もし仕事の結果に問題があれば、期間を定めて修正を依頼したり損害賠償を請求したりすることが可能です。
一方で雇用契約は、依頼主の指示で労務に従事してもらい、その対価として報酬を支払う契約です。仕事の結果に関係なく報酬を請求できます。
しかし、契約の体裁はどうとでも操作できてしまうため、税務上は「実質的に」外注か給与かを判断することになります。
判断基準は、主に以下のとおりです。
- 他人が代替して業務ができるかどうか
- 時間的な拘束を受けるかどうか
- 仕事の具体的な内容、やり方の指揮監督を受けるかどうか
- 完成物が不可抗力のため滅失するなどした場合でも、業務をした分の報酬を請求できるかどうか
- 材料や道具などが、依頼主から支給されているかどうか
以下、それぞれご説明します。
1.他人が代替してできる仕事かどうか
外注の場合は「成果」さえ提供できれば、その過程はどうあろうと報酬を請求できます。このため、外注先が本人ではなく、誰か他の方に仕事を依頼してもよいのです。このように他人が代替できる場合は、外注であると判断される可能性が高くなります。
一方で雇用の場合は、本人が仕事に従事する対価を給与として支払う契約であるため、他人が代わりに仕事しても報酬は支払われません。
2.時間的な拘束を受けるかどうか
外注の場合は「成果」さえ提供できればよいので、基本的にいつ仕事をしても大丈夫です。時間的な拘束を受けていない場合は、外注であると判断される可能性が高くなります。
一方、勤務日や勤務時間が決められていたり、タイムカードなどで勤務時間が管理されていたりする場合には、給与と判断される可能性が高くなります。
3.仕事の具体的な内容、やり方の指揮監督を受けるかどうか
外注の場合は「成果」さえ提供できればよいので、依頼主から仕事のやり方などの指揮監督を受けません。依頼主のルールや指示に縛られていなければ、外注であると判断される可能性が高くなります。
一方、依頼主(会社)の規則や規程に沿って業務をおこなう場合は、給与と判断される可能性が高くなります。
4.完成物が不可抗力のため滅失するなどした場合でも、業務をした分の報酬を請求できるかどうか
外注の場合は「成果」を提供しなければならないため、どのような理由であっても結果が出なければ報酬が支払われません。実態としてこうした状況にある場合には、外注であると判断される可能性が高くなります。
一方で、結果が出なくても勤務した実績により報酬がもらえる場合は、給与と判断される可能性が高くなります。
5.材料や道具などが、依頼主から支給されているかどうか
外注の場合は、依頼主の指揮命令下になく、成果を出すための材料や道具は、外注先が自ら用意することが一般的です。材料が支給されていなければ、外注であると判断される可能性が高くなります。一方で支給されている場合は、雇用関係にあるとして給与であると判断される可能性が高くなります。
判断する際の注意点
外注か給与かは、明確な定義があるのではなく、上記のような基準にしたがって「総合的に」判断することになります。どれかひとつが当てはまるからといって、すぐに給与、外注とするのではありません。
また、契約だけ外注とされる内容で結んだとしても、実態が伴わなければ外注とは認められませんので注意が必要です。
一般的に税務調査では「外注ではなく給与である」との指摘が入ることが多いでしょう。外注として処理したい場合には、実態が外注であることを前提としたうえで、それを客観的に示す以下のような証拠を残しておくことが大切です。
- 業務内容、金額、完成したら支払をするといった、条件を明確にした請負契約書を作成する
- 外注先は、自分で報酬の計算をして請求書を作成、送付している
また、支払先が確定申告をしていれば外注である、ということにはなりません。あくまで事業所得、つまり「自己の計算と危険において独立して営まれた」結果の所得でなければなりません。
否認されるとペナルティはどうなるか
もし、外注費として処理したものが否認され、給与であるとされた場合のペナルティをまとめます。
源泉所得税
支払金額に対応した源泉所得税を支払う必要があります。こちらは、支払先の代わりに払うものなので、後日、支払先に請求が可能です。
しかし支払先とすでに取引がなくなっていて連絡がとれなかったり、時間が経ってからの請求で拒否されたりといった事情で、後日徴収できない可能性もあります。この場合は源泉所得税部分が会社(依頼主)負担となってしまいます。
源泉所得税は期限までに税務署に納付しないと、不納付加算税、延滞税の対象になり、こちらも会社(依頼主)の負担です。
消費税
外注費として処理し、仕入税額控除をとっていれば、給与は仕入税額控除が認められないため、この分の消費税額を支払う必要があります。
消費税は期限までに税務署に納付しないと、延滞税、無申告加算税の対象になり、こちらも会社(依頼主)の負担となってしまいます。
まとめ
外注か給与かの判断は、さまざまな業界で発生します。例えば、建築業者が大工さんに支払う場合、派遣会社が派遣労働者に支払う場合、、塾が講師に支払う場合、美容室経営者が美容師に払う場合など、労働してもらう方の裁量にある程度任せて仕事をしてもらう場面は多く発生します。外注費で処理できるかどうか、慎重に検討しましょう。
また、インボイス制度が始まると、外注先が適格請求書発行事業者ではないと、仕入税額控除が徐々にとれなくなります。今回のコラムとは論点が異なりますが、合わせて確認しておきましょう。
仙波総合会計事務所では、税務上の判断を始めとしてさまざまなご相談を受け付けております。ご相談は無料で行っていただけますので、お気軽にお問い合わせください。
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