社宅制度のメリットと留意点~借り上げ社宅の場合
社宅がある会社は、大企業だけ。そんなイメージを持っていませんか?
しかし中小企業でも、どのような規模の法人でも、社宅制度を使うことができます。社宅制度は従業員にとっても福利厚生面のメリットがあるだけでなく、法人にとっても節税になるのでとても便利な制度です。
この記事では社宅の中でも「借り上げ社宅」のメリットと留意点をわかりやすくご紹介します。
社宅制度とは?所有か借り上げ、どちらがよいか
社宅というと、法人が大きなマンションを複数棟保有していて、従業員の方が大勢入居しているようなイメージがあるかもしれません。しかし法人が建物を所有していなくても、マンションの一室を借りて、そこを社宅とすることもできます。
法人側からみて所有と借り上げ社宅のそれぞれのメリット、デメリットには以下のようなものがあります。
【法人で所有】
メリット
・建物の減価償却費や固定資産税など、関連する経費を法人の経費にできるので、法人税の節税効果が大きい。
デメリット
・住宅ローンや住宅ローン控除を使うことができない。
【法人で借り上げ】
メリット
・マンション一室から手軽に社宅制度を導入できる。初期費用が少なくてすむ。
・賃料などの関連経費は法人の経費にできるので、法人税の節税効果がある。
デメリット
・入居者がいなくなっても、契約期間内は賃料を支払う必要がある。
以下、手軽に導入できる「借り上げ社宅」に焦点をあて、メリットを詳しくご紹介するとともに、留意点をご説明していきます。
借り上げ社宅のメリット
借り上げ社宅のメリットを従業員側、会社側それぞれの立場からみると以下のようになります。
従業員側のメリット
- 個人で借りるよりも家賃が安い(社宅制度を導入している会社は、福利厚生目的で従業員からは家賃の一部だけを徴収し、残りは法人負担としていることが多い)。
- 自分で家を探したり契約をしたりする手間が省ける。
- 給与から法人の家賃負担分を差し引かれても、その分所得税が減る。給与として家賃分を支給されるよりも手取りが増える。
3の補足として、具体例をみてみます。例えば家賃20万円の物件で、10万円を住宅手当としてもらう場合と、社宅入居で10万円の家賃を法人負担してもらう場合を比較してみましょう。
①額面30万円、住宅手当10万円の人
30万円+10万円=40万円が源泉所得税の課税対象になります。残った手取りから家賃20万円を支払います。
②額面30万円、住宅手当0万円の人
30万円だけが源泉所得税の課税対象になるため①よりも源泉所得税が減ります。残った手取りから家賃20万円-法人負担分10万円=10万円を支払います。
このように②の人の方が若干手取りが増えるメリットがあります。
会社側のメリット
- 家賃の法人負担分、その他諸費用を法人の経費にできるので、節税になる。
- 福利厚生充実を求人時にアピールできる。
- 借り上げ社宅は自社保有に比べて管理が楽。場所や広さなど、入居予定の従業員に合わせて選ぶことができる。
このように従業員側、会社側、双方にとって様々なメリットがあります。
借り上げ社宅の留意点
メリットの大きい借り上げ社宅ですが、留意点もあります。以下で見ていきましょう。
源泉所得税の課税対象になることがある
家賃のうち従業員が負担する金額によっては、給与扱いになる金額が出てしまいます。
これを避けるためには、従業員から一ヵ月あたり一定額の家賃(以下「賃貸料相当額」といいます。)以上を受け取っていれば給与として課税されません。
賃貸料相当額は以下で算定します。
- (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
- 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル))
- (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
“しかし、使用人から受け取っている家賃が、賃貸料相当額の50%以上であれば、受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額は、給与として課税されません。”
以上をまとめると以下になります。
- 「賃貸料相当額の50%以上」を従業員に負担してもらえば、課税対象にならない。
- 50%以下だと、「賃貸料相当額」と従業員負担分との差額が源泉所得税の課税対象になる。
- 無償の場合は「賃貸料相当額」が全額源泉所得税の課税対象になる。
従業員負担の家賃はいくらにすべきか検討する
このように「賃貸料相当額」の金額がポイントになりますが、正確に計算するためには借り上げ社宅の場合は固定資産税の課税標準額を大家さんに確認するか、市区町村で調べる必要があります。しかし実務上そこまでするのは大変です。
もし従業員ではなく役員が社宅を借りる場合には課税対象になる条件が異なっており、そのなかには家賃の50%という条件も出てきます(国税庁タックスアンサーNo.2600参照)。このため従業員からも家賃の半額を必ず徴収しなければならないと混同しがちですが、従業員の場合には「必ず」ではありません。「賃貸料相当額の50%以上」で良いのです。
「賃貸料相当額」は、実際に計算してみると実際の賃料よりもかなり低くなり、ときには20%程度になることもあります。さらにこの半分を従業員に負担してもらえば良いのですから、賃料よりもかなり低い金額でよく、具体的には家賃の3割程度を従業員に負担してもらえば大丈夫という判断があります。
しかしこの3割も実際に計算した結果ではありません。「賃貸料相当額」を計算することができない場合には、安全策をとって役員と同様に家賃の半額を徴収していればまず課税されないだろうという判断をされている会社も多いです。
なるべく従業員負担分を減らして、会社負担分を多く経費にしたい場合には、手間はかかりますが固定資産税の課税標準額を調査し、実際に計算をすることがおすすめです。
会社が賃貸契約をする
借り上げ社宅の制度は、会社が賃貸契約をした物件です。たとえ会社が賃料を負担するとしても、従業員が契約をした物件では給与課税されますので注意してください。
社内規程を整備しておく
社宅制度は、税務上の問題だけではありません。費用負担や入退去の条件など、従業員とトラブルにならないためにも、社内規程を整備しておきましょう。
借り上げ社宅の会計処理
借り上げ社宅を導入した場合の会計処理をご紹介します。
家賃20万円の物件を社宅として、従業員に10万円を負担してもらうこととした場合を考えます。
(1)社宅の賃料を大家さんに支払う時
(借方) | 金額 | (貸方) | 金額 |
地代家賃 | 200,000円 | 現金預金 | 200,000円 |
居住用物件のため、消費税は非課税です。
(2)従業員から家賃負担分10万円を預かった時
(借方) | 金額 | (貸方) | 金額 |
現金預金 | 200,000円 | 雑収入 | 200,000円 |
こちらも消費税は非課税ですので注意してください。
実際には給与天引きで預かることも多いかと思います。この場合は源泉所得税などと同様にいったん預り金としてから雑収入に振り替えると分かりやすいでしょう。
まとめ
以上、借り上げ社宅のメリットと留意点をご紹介しました。ひとくちに社宅制度と言っても、借り上げ社宅と自己所有の社宅があり、さらに税務上給与課税されるラインは従業員と役員では要件が違います。混同しないようにしましょう。また給与課税されないラインも判断が伴うところです。不安な場合は税理士に相談してみましょう。
仙波総合会計事務所では、税務上の点を含め、ご相談を随時受け付けております。ご相談は無料で行っていただけますので、お気軽にお問い合わせください。
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