中小企業の賞与はどう決める?業績連動型賞与、決算賞与について解説

業績連動型賞与

業績が安定しない中小企業では、賞与の支払がないケースも散見されます。賞与は必ずしも支払わねばならないものではありません。しかし、賞与があると従業員のモチベーションが高くなりますし、採用時の条件が良くなるので優秀な人材を確保できるかもしれません。

この記事では、中小企業が賞与を支給する際にはどのように金額を決めればよいか、そして業績連動型賞与、決算賞与について解説します。

賞与の種類

賞与の計算方法によって、賞与には以下のような種類があります。

  • 給与連動型
  • 業績連動型

給与連動型は、基本給の〇ヵ月分をベースとして評価を加味する、といった計算方法です。基本給をベースとしており、〇ヵ月分は保障するというような雇用契約が多いのではないでしょうか。

一方業績連動型は、利益に連動して賞与の金額を計算する方法です。会社に残った利益を従業員に還元する形であり、連動する利益には経常利益、営業利益などいくつかの考え方があります。

また、支給時期によっては、以下の種類に分かれます。

  • 通常の賞与(夏と冬のケースが多い)
  • 決算賞与

決算賞与は、決算時に臨時的に支払う賞与であり、通常の賞与とは別に業績によって支払われるかどうか決まる賞与です。このため計算方法としては業績連動型に近くなります。臨時的な位置づけであり、支払われることも支払われないこともあります。

中小企業では、業績が良かったときに従業員に還元するという意味合いだけでなく、同時に法人税の節税、そして近年給与を増加させた場合に適用できる税額控除を受けるためなどにも使われます

業績連動型賞与の計算方法

中小企業では業績が安定していないことも多くあるでしょう。給与連動型だと基本給に比例して支払うことで固定的な支払部分が出てしまうため、業績連動型賞与が採用されるケースが多くあります。賞与の計算方法に正解はありませんが、ここでは業績連動型賞与の計算方法の例をご紹介します。

賞与原資の総額を決める

いくらを賞与に回せるか、賞与原資を決めます。この方法は、一般的に以下のようなものがあります。

  • 営業利益や経常利益の〇%
  • 限界利益*、売上総利益(粗利)の〇%
  • 売上高の〇%
  • 事前に経営者が決めておいた予算(経費のうちの〇%など)

*限界利益は、売上から変動原価を差し引いた金額で、決算書上には出てきません。管理会計用の数字です。おおむねの数字として売上総利益(粗利)を採用するケースもあります。

順にご説明します。

営業利益や経常利益の〇%

販売費及び一般管理費を差し引いて残った利益、またはさらに営業外損益も加味して残った利益のうち、賞与にどの程度配分できるかを検討する方法です。経営者にとっても従業員にとってもわかりやすい指標で、多くの会社で採用されています。

ただし、従業員に説明する場合は損益計算書を開示する必要が出てきます。中小企業の場合、損益計算書をすべて従業員に開示したくない会社もあるでしょう。この場合は従業員に説明ができなくなります。

限界利益、売上総利益(粗利)の〇%

中小企業の場合、業績(利益の数字)よりも節税対策を重視しているケースもあります。そうすると営業利益や経常利益に連動させて賞与の原資を計算する方法は、従業員の頑張りを反映しなくなるとも考えられます。この場合は、限界利益や売上総利益(粗利)を基礎として採用する考え方があります。

この時に、〇%(配分)はどのように決めるとよいでしょうか。
考え方のひとつとして、目標とすべき労働分配率を決めて、賞与を含む人件費の総額を決める方法があります。労働分配率は限界利益(正確には付加価値)のうち人件費が占める割合をいい、業種や会社の規模によって適正と言われる率の範囲は異なります。同業他社との比較や、自社の目標などから決めるとよいでしょう。

売上の〇%

売上高に連動させて賞与の原資を計算する方法は、簡単でわかりやすいというメリットがあります。
ただし原価が出る業種の場合は「売上高」は適切な業績を表しているとは言い難いです。原価がかかりすぎていれば利益は残りません。原価がほとんどかからないサービス業などでは採用しやすいでしょう。

事前に経営者が決めておいた予算(経費のうちの〇%など)

経営者が独自に前年比較や予算比較などから、賞与の予算総額を決めてしまう方法です。
毎期決定方法が変更されてルール化しておかないと従業員の理解が得られにくくなる可能性があります。

個人の評価を加味する

賞与の原資総額が決まったら、次は従業員個人に配分します。

個人の評価方法を決め、より会社に貢献した方に報いることができるようにします。「貢献している」ことを示す、目に見えた指標を決めるのが大切です。

個人の評価だけでなく、会社が特に追い求めたい目標などを設定し、達成したら賞与原資自体に加味する方法もあります。この方法だと、個人だけでなくチームや組織全体でさらにモチベーションが上げられるでしょう。

賞与を支給するメリットと注意点

賞与を支給しモチベーションを上げることで、業績アップを図れる可能性があります。しかし、中小企業の場合、業績が安定しない中で常に賞与を支払うことにしてしまうと、業績を圧迫してしまいます。
賞与を出すメリットと注意点をご紹介します。

メリット

主なメリットは以下のとおりです。

  • 従業員のモチベーションをアップさせ、会社全体の業績を上げられる
  • 優秀な人材を採用できる
  • 業績がよい時には、従業員の貢献に報いるとともに、損金にして税金の支払も抑えられる(決算賞与や所得拡大促進税制の適用など)

所得拡大促進税制については「所得拡大促進税制と人材確保等促進税制とは?2021年4月1日開始事業年度からの改正」の記事もご参考にしてみてください。

注意点

主な注意点は以下のとおりです。

  • 賞与の算定根拠を従業員に説明し、モチベーションアップにつなげてもらうと、より効果的。一方で、目標を達成していないなどの場合は、賞与の支給がない場合もあることをしっかり認識してもらう
  • 賞与の算定根拠をできる限りルール化し、運用しやすいものにする
  • 残っている利益を圧迫するほどの賞与を支給しないように気を付ける
  • 決算賞与を出す場合は税務上の損金になる条件に注意する

常に賞与が出ていると、もし出せない場合には不満を抱かれる場合があります。どのような根拠で賞与の原資を計算しているか、しっかり説明しておくことが大切です。

決算賞与については次の項目でご説明します。

決算賞与を出す場合の注意点

決算賞与は通常の賞与とは別に、決算近くになり、ほぼ確定した業績を見て、臨時的に支給する賞与です。業績が良かった場合に従業員に報いるとともに、損金にすることで法人税の節税を図ることが可能です。

急遽支給を決めたため、資金繰りが間に合わずに決算時点で未払になってしまっても、損金にすることができます。ただし、その場合は以下の要件を満たす必要があります。

  • その支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知をしていること
  • 通知をした金額を、通知したすべての使用人に対し、その通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること
  • その支給額につき、通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること

この要件を満たさない場合は「支払時に」支払った金額が損金になります。節税も目的とする場合は注意しましょう。国税庁タックスアンサーNo.5350も参照ください。

まとめ

 

以上、中小企業の賞与の決め方についてご紹介しました。

賞与の決め方に正解はありません。あれこれルール化したり説明したりせずに、支払える時に「業績が良かったから」と支払うだけでも良いのですが、せっかくなら従業員がさらにモチベーションをあげて、会社の業績もアップできるような仕組みを考えたいところです。しかしあまり複雑なルールは運用するのが大変ですので、運用しやすい範囲で、自社に合った決め方ができるとよいでしょう。

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