減価償却とは?計上時に検討すべきことを解説
減価償却は、資金の動きがない会計処理であるため、意図的に計上しないと失念しがちです。一般的に決算(月次)整理仕訳のひとつとされています。
このコラムでは減価償却とは何か、減価償却の一般的な会計処理、そして会計処理をするにあたって検討すべきこと、特に一括償却資産と少額減価償却資産について解説します。また、減価償却に関して税務上と会計上の違いもご紹介します。減価償却をいくら、どのように計上したらよいか迷っている方は、ぜひ参考にしてみてください。
減価償却とは何か
減価償却とは、資産を取得した場合に、使用を開始した時に一度に全額を費用とするのではなく、耐用年数にわたって徐々に費用とすることをいいます。資産は時の経過にしたがって価値が減少するため、価値のある期間にわたって費用を認識する、という考え方による方法です。
減価償却の対象となる資産を「減価償却資産」といいます。減価償却資産は、事業で使用しており、かつ、時の経過にしたがって価値が減少する資産であり、具体的には、以下のような資産をいいます。
・建物
・建物附属設備
・機械装置
・工具器具備品
・車両運搬具
・ソフトウェア など
有形のものだけでなく、ソフトウェアのような無形のものも含まれます。
ただし、使用可能期間が1年未満のもの、取得価額が10万円未満のものは、減価償却をせずに使用時に全額を費用とすることができます。金額が僅少なものは、全体に与える影響が少ないからです。一般的には消耗品費などの科目で処理し、減価償却費の科目は使用しないことがほとんどです。
これを少額の減価償却資産といいます。詳しくは国税庁ホームページ、タックスアンサーNo.5403も参考にしてみてください。
減価償却の会計処理
減価償却は、減価償却資産の中で今期の費用となる部分を計算します。
例えば取得価格が2,000万円の建物で、耐用年数が50年、定額法で計算した場合の減価償却の仕訳は以下のとおりです。
(借方)減価償却費 40万円* (貸方)建物** 40万円
*2,000万円÷50年
**減価償却累計額、の科目を使う場合もあります。
今期の費用となる金額を計算するのに必要な情報は、以下のとおりです。
- 取得価額
- 耐用年数
- 減価償却方法
(1)取得価額
取得価額は、減価償却資産の金額です。購入した減価償却資産の取得価額には、原則としてその資産の購入代価と、その資産を事業の用に供するために直接要した費用が含まれます。
取得価額は、通常1単位として取引される「単位ごと」に判定します。例えば応接セットはテーブルと椅子がセットで機能するため、すべてを合わせて1つの減価償却資産として処理します。このため、もし椅子1脚が10万円未満でも、椅子部分を全額費用にせず、テーブルと合わせてすべてが10万円以上であれば、一体として減価償却の対象としなければなりません。
(2)耐用年数
耐用年数は、資産の価値が持続する期間をいいます。個別にその期間を決めるのは客観性に欠けるため、税務上では耐用年数を「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」に定めています。実務上は、国税庁などで公表されている耐用年数表と照らし合わせて調べることになるでしょう。
耐用年数表では、構造・用途、細目別に耐用年数が決まっています。実務上では、ぴったりとあてはまるものがない場合も出てきますが、耐用年数表の「その他」で処理をするか、もしそれでも耐用年数が一般的な感覚とかけ離れている場合には、似たところを探して選択していくことになるでしょう。
(3)減価償却方法
減価償却方法には、主に定額法と定率法があります。税務上では資産の種類ごとに法定の計算方法があり、例えば法人の場合は、建物、建物附属設備、構築物は定額法、その他の有形固定資産は定率法となっています。
税務上、法定以外の方法をとることも可能です。この場合は届出が必要になります。減価償却をおこなうには、法定または届け出た方法を選択します。
実際の減価償却計算は、減価償却のソフトでおこなうことがほとんどです。ソフトで計算すれば、計算間違いはありません。上記で説明した(1)取得価額(2)耐用年数(3)減価償却方法、そして減価償却の開始日(事業供用日)を正確にソフトに入力しましょう。減価償却の開始日は購入した日ではなく、資産の利用を開始した日になります。
手計算では計算が煩雑になるため、ソフトの利用をおすすめします。
一括償却資産、少額減価償却資産の検討
減価償却の会計処理をおこなう際に検討すべきこととして「一括償却資産、少額減価償却の特例を利用するかどうか」という点があります。
減価償却計算の対象となる資産は10万円以上で、耐用年数にわたり減価償却費を認識するのが原則ですが、税務上では、一括償却資産、少額減価償却資産という特例があります。
・一括償却資産
取得価額10万円以上20万円未満の減価償却資産のことをいい、3年間で均等償却した金額を減価償却費とすることが可能です。
・少額減価償却資産
「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」を適用した減価償却資産を少額減価償却資産といいます。この特例は、青色申告法人である中小企業者のみが適用可能な制度で、取得価額が30万円未満であれば固定資産の利用を開始した時に全額を費用に計上できます。この特例を利用して計上した減価償却費は、原則として年間300万円までです。
詳細は国税庁ホームページ、タックスアンサーNo.5408も参考にしてみてください。
ここで検討が必要になるのは、以下のケースです。
・取得価額10万円以上20万円未満の減価償却資産
通常の減価償却資産としても、一括償却資産としても、少額減価償却資産としても償却が可能です。費用を多くして法人税を減らしたい場合は、多く償却できる少額減価償却資産を選択する、という考え方があります。逆に赤字のため費用を減らしたい場合は通常の減価償却資産として耐用年数にわたり償却をおこなうことが考えられます。
また、一括償却資産は償却資産税の対象になりません。償却資産税を減らしたい場合には、一括償却資産を選択することも考えられます。
・取得価額20万円以上30万円未満の減価償却資産
少額減価償却資産か、通常の減価償却資産として償却が可能です。費用を多く取りたいか、そうでないかで選択していくとよいでしょう。
どちらも、その時の損益の状況や経営者の判断によります。減価償却をおこなう場合には、選択肢があることを念頭においておきましょう。あくまで選択肢なので、どれを選んでも要件さえ満たしていれば、税務上は認められます。
税務上と会計上の違い
ここまで、税務上の減価償却についてご説明してきました。税務上では恣意性を排除するため、法定の減価償却方法、法定の耐用年数が決められており、それ以上の金額を費用として計上しても損金として認められません。
一方で会計上は、減価償却の考え方は同じですが、実態を表すように償却をします。ただし実務上では、個別に実態を判断するのが困難であることが多く、税務上の減価償却方法、耐用年数を会計上も使用していることが多いです。
このように多くの中小企業では、税務上と会計上の減価償却費の金額は一致しています。ただし、税務上では減価償却は任意償却となっており、法定の方法で計算した償却限度額の範囲内であれば、金額はいくらでもよいことになっています。償却限度額よりも多く計上するのは損金として認められませんが、もし赤字であれば償却しない判断も考えられるでしょう。
しかし減価償却をすることで、決算書がその時点の企業の実態を表します。中小企業会計要領でも、毎期規則的な減価償却をおこなっているかどうかの記載があり、減価償却をすることで、金融機関など第三者から見た決算書の信頼性が高まります。また、自社の正確な経営判断のためにも、固定資産の実態をあらわすために減価償却を毎期おこないましょう。
まとめ
以上、減価償却についてご紹介しました。計算方法は決まっているものの、判断をともなう事項も多くあります。
また、以前記載したコラム「修繕費とは?資本的支出との違い、判断基準を解説」において、資本的支出は固定資産として減価償却をおこなうことになります。合わせて確認してみてください。
仙波総合会計事務所では、税務上の判断を始めとしてさまざまなご相談を受け付けております。ご相談は無料で行っていただけますので、お気軽にお問い合わせください。
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