限界利益と損益分岐点を把握しよう | 中小企業での経営分析

限界利益

限界利益は「売上から変動費を差し引いた金額」で、会社の収益性を見る重要な指標です。売上総利益(粗利)と同じ意味合いで使われることがありますが、実際は異なるものです。「粗利」はよく聞きますが「限界利益」は普段あまり見慣れないのではないでしょうか。会計システム上の損益計算書上では「限界利益」は表示されません。

このコラムでは限界利益に注目し、その概要と、限界利益を利用した損益分岐点売上高の計算方法をご紹介します。限界利益は、中小企業の経営分析に非常に役立ちますので、普段から意識してみましょう。

限界利益の概要と分析

限界利益とは何か、概要と、分析の仕方を合わせてご紹介します。

限界利益の概要

限界利益は、売上から変動費を差し引いた金額です。ここで変動費とは、売上数、生産数に比例する費用です。一方で固定費は、販売、生産がゼロでも発生してしまう費用をいいます。

例えば、1パック500円で販売するたこ焼きがあったとします。たこや薄力粉など、たこ焼きを作るための費用(原価)が150円だとします。この場合、粗利は500円-150円=350円です。

粗利と限界利益が似た意味合いで使われるのは、場合によってはどちらも同額または大きな差がないことがあるからです。

この例だと、たこ焼きの限界利益はいくらになるでしょうか。

ここで、まずたこ焼きを20,000パック販売したとした損益計算書の例を確認します。

 

金額(円)
売上高 10,000,000
売上原価 3,000,000
売上総利益(粗利) 7,000,000
販売費及び一般管理費 3,000,000
営業利益 4,000,000

 

限界利益は「売上-原価」ではなく「売上-変動費」です。変動費は、売上数、生産数に比例する費用とご紹介しました。損益計算書の中で、売上原価は変動費です。そして販売費及び一般管理費のなかにも、変動費が入っていることが多いです

例えばたこ焼きを販売する場合、材料の運送代、誰かに販売を委託した場合の販売手数料などが考えられます。これらの変動費もすべて差し引いたものが限界利益です。もしたこ焼き1パックあたり、50円の変動費が販売費及び一般管理費のなかに計上されていれば、限界利益は500円-(原価150円+50円)=300円になります。

限界利益は、商品を販売することで得られる利益を示し、黒字であれば販売量を増やせば利益も上がるといえます。もしマイナスであれば、販売することで逆に赤字を増やしている状況です。

粗利と比較して、同額か低い水準になります。粗利のみで考えていると、販売費及び一般管理費のなかにも販売に比例したコストが入っていることがあるので注意が必要です。

限界利益率の分析

限界利益率は、業種によってかなり差があります。業種の平均を調べてみて、自社の水準と比較してみるとよいでしょう。一般的には、介護事業、コンサルティングなどの人件費に頼るサービス業など、固定費となる人件費が多い業種は限界利益が高くなる傾向にあります。原価があまりかからない代わりに、固定費を回収しなければ利益が出ません。

また、他社との比較と同時に、自社の利益率の推移にも注目しましょう。限界利益率が上がっている、または下がっている原因を確認し、今後の目標をきめていきましょう。

商品別ごとに限界利益率を出すことも、分析のひとつです。限界利益率が高い商品を多く販売できれば、理論上は最も利益が上がることになります。ただし、利益率が低くても人を寄せ付けてくれる商品もあるなど、実務上はさまざまな状況があるので一概にはいえません。結局は試行錯誤することになりますが、商品の限界利益率を知った上で検討することが意思決定上大切です。限界利益率がマイナスの商品だけは、販売するだけで赤字になりますので注意が必要です。

変動損益計算書とは

上記でみたように、損益計算書の中では限界利益が表示されません。このため、あまり普段は意識しないこともあるかもしれません。限界利益を表示する損益計算書を「変動損益計算書」といいます。これは管理用のものであるため、損益計算書とは別に作成が必要です。

そう聞くと大変そうですが、そこまで煩雑ではありません。販売費及び一般管理費の中で、勘定科目ごとに変動費と固定費を分けるだけです。多くの会計ソフトでは試算表などをデータで切り出せるので、変動費の勘定科目と固定費の勘定科目を分けるだけで作成できます。

その結果、たこ焼きの変動費が200円だとした場合は以下のような形になります。

 

金額(円)
売上高 10,000,000
変動費 4,000,000
限界利益 6,000,000
固定費 2,000,000
営業利益 4,000,000

 

損益分岐点とは

限界利益は、損益分岐点の売上を計算するのに役立ちます。損益分岐点の売上とは、利益がゼロになる場合の売上をいいます。つまり、その売上が計上できれば赤字にならずに済む金額です。

損益分岐点の売上金額を把握していないと、営業活動をすればするほど赤字を計上してしまい、会社が維持できなくなってしまいます。

損益分岐点売上は、固定費の金額を回収できる売上です。固定費は販売活動の有無にかかわらず発生してしまうので、最低限でもこの分は利益をあげなければ赤字になってしまいます。

上記の例でいうと、固定費は2,000,000円です。たこ焼き1パックあたりの限界利益は300円なので、2,000,000円÷300円=6,666.66‥パックです。6,666.66‥パック✕販売価格500円≒3,333,334円が損益分岐点売上高になります。

簡単に、限界利益率(ここでは300円÷500円=0.6)を出し「固定費÷限界利益率=損益分岐点売上高」として求めることもできます。

通常、たこ焼きだけを販売することはないでしょう。さまざまな商品を販売しているため、例のように単純ではありません。まずは、全社での損益分岐点売上高を出した上で、会社全体で採算がとれているかを確認しましょう。そして、もしさまざまな業態がある場合には部門別、製品別などに分けて計算してみることがおすすめです。

限界利益を上げるための方法

限界利益を上げていくためのアプローチの仕方は、主に以下の2点です。

  • 価格を上げる
  • 変動費を下げる

他の利益と同様、売上を上げるか、コストを下げるかしかありません。近年の原材料の高騰で変動費が上がっている場合、価格にも転嫁しないと限界利益は下がってしまいます。

しかし値決めは難しく、価格を上げた結果販売数量が減ってしまっては、利益のボリュームが減ってしまいます。

販売価格を上げるには、以下のようなさまざまな方法があります。

  • 販売方法の工夫
  • 商品の機能向上
  • サービスを付随させる
  • ブランドイメージをもたせる
  • 原価上昇を理由にする

答えはありませんが、値決めには難しい判断がともないます。

一方で、変動費を下げることについては、自社でできるため手をつけやすいです。しかし、業務効率化などの対策は取り組むべきですが、材料の品質やサービスの低下は販売数量を下げる可能性があるため、よく検討しましょう。

まとめ

以上、主に限界利益についてご紹介しました。損益計算書に出てこない利益ですが、管理上は重要な概念です。特に、固定費を回収できる損益分岐点の売上を計算するのに役立ちます。損益分岐点の売上は、最低ラインの目標として意識しておく必要があるでしょう。

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