修繕費とは?資本的支出との違い、判断基準を解説

修繕費と資本的支出

劣化したり壊れたりしたものを修理した費用は、「修繕費」としてすぐに全額が費用になると思いがちです。しかし修繕の意味合いで支出したものでも、税務上は「資本的支出」として資産計上され、支出時に全額を費用にできないケースがあります。
この記事では修繕費と資本的支出の違いと判断基準をご説明します。税務調査でも論点になることが多いのでよく確認しておきましょう。

 

修繕費と資本的支出の違い

修繕費と資本的支出とは何が違うのでしょうか。それぞれの定義と具体例を確認していきます。

修繕費とは

修繕費は固定資産などの修理、改良のためにかかった支出であり、ポイントは以下の通りです。

・修理した資産の「維持管理」「原状回復」のための支出であること
・上記の性質のものであれば、金額はいくらであっても修繕費となること

税務上、修繕費は支出時に全額が費用となります。

具体例は以下の通りです。

・所有している建物で雨漏りがしたので修理した費用(機能向上はなし)
・賃貸物件を退去した時に請求された原状回復費用
・機械が故障したので修理した費用
・事務機器のメンテナンス費用
・車検の費用(パーツを追加したものはなし)

資本的支出とは

資本的支出とは、資産の価値や機能を高めるための支出で、資産の耐用年数を伸ばす性質のある支出です。

税務上、資本的支出は固定資産として扱われ、耐用年数にわたって費用となります。

具体例は以下の通りです。

・部屋を借りて、内装を新しくするための費用
・建物に新しく非常用階段を取り付けた費用
・機械が故障したので、この機会に高度な性能の部品に付け替えた費用
・車両に新しいパーツを取り付けた費用

原状回復、維持管理を超えて、価値や機能を増加させるための支出が資本的支出になります。

 

修繕費と資本的支出の判断基準

「原状回復」か「機能向上」か、といっても、両方の意味合いのある支出もあれば、どちらとも判断がつかないこともあります。このように実務上は修繕費と資本的支出が簡単に白黒つけにくい性質であることが多々あるので、ある程度の判断基準が設けられています。

まず、以下の場合は修繕費にできます。

(1)おおむね3年以内の期間を周期として行われる修理、改良などであるとき
(2)または一つの修理、改良などの金額が20万円未満のとき

その上でなお支出の内容が、修繕費か資本的支出か明らかでない部分があるときには、以下の判断が可能です。

(3)その金額が60万円未満のときまたはその資産の前年末の取得価額のおおむね10パーセント相当額以下であるとき

このときはすべてを修繕費にできます。
(国税庁タックスアンサーNo.1379参照)

この判断基準をもってしてもなお修繕費か資本的支出か明らかでない部分があるときは、最終的に両者を区分する特例があります。

それは法人が継続して、
①支出金額の30%相当額、と
②その修理、改良等をした固定資産の前期末における取得価額の10%相当額
とのいずれか少ない金額を修繕費とし、残額を資本的支出とする経理をしているときは、これを認めるというものです。

どうしても迷った場合はこうした特例もありますが、基本的にはその支出の内容によって修繕費か資本的支出かを判断します。国税庁の法令解釈通達もご参考にしてみてください。

 

具体例

判断に悩みそうな具体例をみてみましょう。

(1)ソフトウェアの法改正アップデート

法改正アップデートをしないとそのソフトウェアを使用できなくなるため、維持管理のための費用として修繕費となります。
もしソフトウェアの機能をアップさせる部分も追加したならば、その部分は資本的支出になります。
(参考:法令解釈通達37-10の2)

(2)蛍光灯をLEDランプに取り換えた

LEDに変わったことが機能のアップにつながるかどうかが判断基準になりますが、蛍光灯をLEDランプにしただけでは価値を高めるとまでは考えられないとされています。このため修繕費で処理します。
(参考:質疑応答事例)

(3)用途変更の内装工事

既存の内装を改装する場合、事務所用から店舗用などの用途変更のための模様替えや改造、改装をした支出は資本的支出になります。内装に傷がついて現状回復するための修理ならば修繕費ですが、原状回復だけでなく用途変更をともなう場合は価値を高めるものとされます。
(参考:法令解釈通達37-10)

(4)防水工事

・雨漏りの修理のため
・塗装が機能をアップさせるものではない一般的なものである
・通常の修理周期に行われるもの

のような、総合的に機能をアップさせるものはないと判断される場合は修繕費になります。
もし通常よりも機能をアップさせるような塗装を使用した時は資本的支出になります。

工事関係は特にひとつの支出の中でも修繕部分と資本的支出部分に分かれることが多いので、内容をよく確認して一つずつ判断していきましょう。

 

30万円未満は少額減価償却資産の特例

中小企業者(資本金1億円以下など)等は少額減価償却資産の特例があり、資本的支出にあたるものでも30万円未満であれば全額を費用にできます。資本的支出に限らず、新規で取得した固定資産一般に適用される特例です(詳しい要件はこちら)。

 

仕訳例

修繕費、資本的支出の簡単な仕訳例を確認します。

(1)パソコンが故障したので5万円の修理費を支払った。

借方 金額 貸方 金額
修繕費 50,000円 現金預金 50,000円

(2)機械装置に新しい機能を追加するため50万円を支払った(償却率0.2の機械)。

借方 金額 貸方 金額
機械装置 500,000円 現金預金 500,000円
減価償却費 100,000円 機械装置 100,000円

新しい機能なので資本的支出として処理します。

(3)機械装置に新しい機能を追加するため20万円を支払った。少額減価償却資産の特例を利用する。

借方 金額 貸方 金額
機械装置 200,000円 現金預金 200,000円
減価償却費 200,000円 機械装置 200,000円

ひとつの支出が明確に修繕費か資本的支出かに分けられる場合だけでなく、前述したように工事関係などひとつの支出の中でも修繕部分と資本的支出部分に分かれることがあります。このような場合は見積書および現物を確認し、修繕費と資本的支出を分類して会計処理をしていきましょう。

 

まとめ

 

まとめると以下の通りです。

・修繕と思われる費用でも、資本的支出とされるケースがあるので注意が必要。
・修繕費は「維持管理」「原状回復」のための支出。資本的支出は資産の価値や機能を高めるための支出。まずは支出の内容で判断をする。
・工事関係など、ひとつの支出の中でも修繕部分と資本的支出部分に分かれることがあるので見積書、現物をよく確認して判断する。
・判断がつかないものについては、金額基準などのある程度の判断基準がある。

修繕費を支出した時には、「資本的支出ではないか」を一度立ち止まって考えてみましょう。

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