売掛金管理の方法は?回収できないときはどうするか。税務上の貸倒損失についても解説
企業間では売上代金を掛にする「掛取引」が主流です。売上は原則として代金の受領時ではなく、商品の発送時や検収時などの収益が実現した時に計上します。このため売上計上時よりも代金回収が遅くなってしまいます。
売上があっても、代金を回収できなければ意味がありません。この記事では売掛金管理の方法と、万が一回収できなかった場合の対処法についてご紹介します。
売掛金管理とは?業務の流れとポイント
売掛金管理とは、売り上げたもののまだ未回収の債権である”売掛金”を管理することで、具体的には以下のような業務をいいます。
- 請求書の発行
- 入金の確認
- 入金の消込
- 期日通りに回収できなかった売掛金の確認、督促
- 回収できない売掛金の理由確認、回収手段の検討、回収の実施
売上を確実に請求し、回収するための一連の業務が売掛金管理です。それぞれの内容とポイントをご説明します。
請求書の発行
請求しなければ代金は回収できません。漏れなく請求書を発行することが大切です。
請求書の発行タイミングやフォームは、自社で決められることもありますが、得意先に合わせる必要がある場合もあるでしょう。また契約書による売上の計上のため、請求書の発行は必要がないケースもあります。
営業担当とよくコミュニケーションを取って、請求書を漏れなく、得意先に合わせて発行できるような体制を整えましょう。
入金の確認、入金の消込
入金はなるべく早めに随時確認しましょう。遅くなってしまうと、未入金の場合の対処が遅れてしまいます。
入金の消込の方法としては以下のようなものがあります。
(1)エクセルで請求案件のリストを作成して、入金されるまで状況を管理する
→手作業なので手間と時間がかかるが、エクセルなので手軽に管理できる
(2)会計ソフト上で確認する
→会計の記帳を売掛金管理にも利用するので手間がかからないが、売掛金元帳は計上した売掛金に対してどの分が入金されたかを消しこむ形にはなっていない。売掛金元帳を利用して紙面またはエクセルなどで別途管理が必要になる。
(3)会計ソフトの中でも、販売管理の機能がついているものを探して利用する
→会計ソフトの記帳と同時に、売掛金管理もできるので便利。ただしメインは会計ソフトの機能である場合が多いので、使い勝手が良くない場合もある。その場合は結局エクセルなどで多少補完する。
(4)販売管理システムを導入する
→売上や取引先の件数が多くなると消込が大変なので、専用のシステムを入れればスムーズにできる。ただしコストがかかる。
業種や規模によって、取引先数や売上の件数はかなり異なります。自社の状況に合わせて、コストと利便性を比較して検討してください。一般的な中小企業では、エクセル管理、または会計ソフトに販売管理機能がプラスされているものを利用しているケースが多いのではないでしょうか。
期日通りに回収できなかった売掛金の確認、督促
入金消込の結果、予定した期日どおりに回収できなかったものがあれば、早めに得意先に確認しましょう。
得意先の支払ミス、自社の請求書の発行漏れ、売上のタイミングについて自社と得意先の認識のズレがある、など原因はさまざまです。原因を明らかにし、いつ入金予定なのかを再度確認することが大切です。
回収できない売掛金の理由確認、回収手段の検討、回収の実施
長期間にわたって回収できない売掛金が出てくる場合もあります。期日から入金が何か月遅れているかを示す「売掛金年齢表」などの資料を作成し、定期的に確認しましょう。
入金があまりに遅れているものについては、回収手段を検討します。売上の認識違いの場合は、残念ながら諦めて売上を取り消す選択もあります。
売掛金が回収できないときの対応は、以下の項目で具体的にご紹介していきます。
売掛金が回収できないときの対応
売掛金が回収できない場合はどのように対応すればよいでしょうか。得意先とのトラブルや当方の請求ミスの場合は、まずはその解消に向けて対策を練りましょう。
ここでは、こちらに非がないにもかかわらず支払ってもらえないケースを考えます。売掛金は5年間の消滅時効があり、何もせず放置していると債権が消滅してしまいます。早めに何らかの対策をおこないましょう。
考えられる主な対応は以下のとおりです。
- 得意先への債務がないか、あれば相殺できないか確認する
- 出荷を止める
- 得意先と債務の残高を確認し、回収計画を作成する
- 内容証明郵便を送る
- 法的手段をとる
- 回収を諦めて貸倒損失を計上する
相手先への債務と相殺できないか確認する
まずは得意先に対して、逆に当社の債務がないか確認し、もしあれば支払わずに売掛金と相殺してしまいます。一番簡単にできる方法です。
出荷を止める
継続的な取引の場合は、これ以上の未回収を増やさないように出荷、取引を停止しましょう。
得意先と債務の残高を確認し、回収計画を作成する
支払意思があるものの、資金の事情などで支払ができない場合は、未払の残高がいくらあるのかを確認した書面をもらい、回収計画を作成して少しでも回収できるようにします。
少額ずつでも回収が進むだけでなく、確認の書面は訴訟などにおいて証拠になります。
内容証明郵便を送る
話合いで解決できない場合は法的手段に出ることになりますが、その前にまずは内容証明郵便を送りましょう。
内容証明郵便は「債権を回収する」という強い意思表示を示します。著しい資金不足だと難しいかもしれませんが、得意先の悪意で支払わないようなケースでは心理的な圧力をかけられ、支払ってもらえる可能性があります。
法的手段をとる
通常の訴訟よりも簡易な手続きで費用も抑えられる方法として「支払督促」の制度があります。簡易裁判所の書記官が相手方に支払を命じる手続きで、書類審査だけでおこなわれるので通常の訴訟に比べて時間をとられません。
また「少額訴訟」の制度もあります。60万円以下の請求に限り利用できる制度で、簡易裁判所での訴訟手続きです。迅速な手続きで、原則として即日で判決が出ます。
ただし、いずれも相手方が同意しなければ通常の訴訟に移行してしまいます。
回収を諦めて貸倒損失を計上する
どうしても回収できない場合は税務上の貸倒損失として損金にできないか検討しましょう。
ただし税務上の損金にするには要件があります。次の項目で確認していきます。
税務上の貸倒損失とは
税務上、貸倒損失として損金に計上できるのは、以下の場合です。
(1)金銭債権が切り捨てられた場合
会社更生法、民事再生法の適用など、法的な手続きで債権が消滅した場合。
(2)金銭債権全額が回収不能となった場合
債務者の資産状況や支払い能力などから、債権の全額が回収できないことが明らかになった場合。
(3)一定期間取引停止後弁済がない場合等
継続的な取引をおこなっていたが、相手先の支払い能力悪化などで取引を停止した場合において、停止した時と最後の弁済の時などのうち最も遅い時から1年以上経過した場合。
または同一地域の債務者に対する債権の総額が取立費用より少なく、支払を督促しても弁済がない場合。
この要件は、売掛債権が対象です。
法人税基本通達9-6-1〜3までに詳しい記載がありますので、検討する際には確認してください。
まとめ
以上、売掛金管理の方法と、万が一回収できなかった場合の対処法をご紹介しました。
代金を回収するまでが販売活動です。回収でなければいくら売り上げても意味がありませんので、売掛金管理はとても大切な業務です。特に入金消込などは手間がかかり煩雑な作業かもしれませんが、しっかりおこなう必要があります。
また税務上、貸倒損失を損金計上する際には、特に上記(2)の「金銭債権全額が回収不能となった場合」は、具体的な要件が明確でなく判断が難しいところになります。
仙波総合会計事務所では、税務上の判断を始めとしてさまざまなご相談を受け付けております。ご相談は無料で行っていただけますので、お気軽にお問い合わせください。
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