短期前払費用の特例とは?インボイス制度導入後の取り扱いも解説
「短期前払費用」は、会計上は前払費用であるものの、税務上損金として算入できるものをいいます。ただし損金として認められるためには要件を満たす必要があり、注意が必要です。
このコラムでは、短期前払費用の特例の概要および損金として認められる要件、具体例を紹介します。また、消費税の仕入税額控除はどのタイミングで控除できるのか、インボイス制度導入後に短期前払費用の取り扱いがどうなるかについても合わせて解説します。
短期前払費用の特例の概要と効果
短期前払費用の概要と効果は以下のとおりです。
短期前払費用の概要
会計上の「前払費用」は、契約に基づいて継続的に役務の提供を受けるために支払った金額のうち、まだ役務提供を受けていない部分をいいます。例えば家賃の支払で「翌月分」を当月に支払った場合には、支払った部分に関する役務提供・サービスの提供は「翌月」になることから、当月の費用ではなく、資産項目である「前払費用」となります。
しかし次の項目で説明する「要件」を満たす場合には、税務申告上は前払費用とせずに、支払った分を支払った時の損金とすることが可能です。これを短期前払費用の特例といい、税務上認められている制度です(国税庁ホームページタックスアンサーNo.5380参照)。
短期前払費用の効果
短期前払費用の効果は主に以下の2点です。
- 事務処理が簡素化できる
支出時に損金経理ができるため、支出の中で前払費用部分を検討し、科目を振り替える必要がなくなります。 - 適用初年度に節税できる
短期前払費用の適用初年度では、翌期に役務提供を受ける分の支出まで損金に計上するため、法人税を減らす効果がありますす。一般的に所得が多く出すぎて節税したい時に、短期前払費用として処理できるものがないかを検討するケースが多いでしょう。ただし翌事業年度からは継続して処理することになるため、同じ契約、同じ金額であれば節税効果はなくなります。
短期前払費用と認められるための要件と具体例
短期前払費用は、本来であれば前払費用とされるものの中で、以下の要件を満たすものについては支払時の事業年度で損金となるものをいいます。
- 支払った日から1年以内に役務提供を受けるものであること
- 継続的に支払った日の属する事業年度で損金とすること
注意点は以下のとおりです。
- 等質・等量の役務提供であること
本来前払費用であるものが前提です。このため契約に基づいて、継続的に役務・サービスの提供を受ける契約であることが必要です。物の引き渡しを伴うものは適用できません。また、税理士の顧問料は等質・等量ではないため適用できません。
- 収益に対応する費用は対象外
売上等、収益に対応する費用は対象外です。例えば家賃の支払は短期前払費用の対象ですが、その家賃分を含めて入居者に請求し売上に計上しているようなビジネスの場合は、売上と費用を対応する必要があるため、家賃だけを短期前払費用として損金とすることはできません。
- 支払は事業年度中に完了していること
短期前払費用は、役務の提供が来期であっても、要件を満たせば「支払時に損金」とできる特例です。適用したい場合には、事業年度中に支払を完了しなければなりません。
このため、適用したい場合には支払日を確認しておきましょう。月末が土日祝日等で引落が翌月になってしまったり、振込を失念してしまったりしないように注意が必要です。また、資金が早めに必要になるため、資金繰りも確認しましょう。
- 支払った日から1年以内に役務提供が完了すること
例えば3月決算の法人が、3月に翌期4〜3月分の賃料を支払った場合は支払日から1年以内に役務提供が完了するため、短期前払費用の対象となります。しかし2月に支払をしてしまった場合には役務完了が1年を超えてしまうため、対象外となります。国税庁の質疑応答事例も参考にしてみてください。
- 継続的に損金経理すること
利益操作を排除するため、短期前払費用として損金にするためには毎期継続的に処理することが必要です。事業年度によって「この年は利益を出すために前払費用の処理に変更する」「この年は税金を少なくするために短期前払費用にする」ということはできません。
- 会計上の重要性の原則を、税務上も認める趣旨であること
会計上、収益と費用は対応するように処理をする必要があります。しかし重要性の原則により、重要性が乏しいものについては支払時に費用とすることも許容されます。短期前払費用の趣旨は、税務上もこの考え方を認めるものです。
このため、あまりにも重要性の原則を逸脱したもの、利益操作の意図が大きいものについては税務上も認められない可能性があります。どのようなケースかは具体的に決まっておらず、質的・量的な重要性を個別に判断することになります。
短期前払費用として処理する主な費用は以下のとおりです。
- 家賃
- 地代
- リース料
- 火災保険料
- 法人保険の保険料
短期前払費用の消費税の扱い
短期前払費用として処理した費用について、消費税の仕入税額控除はいつ控除できるのでしょうか。タイミングおよびインボイス制度適用後の取り扱いについて説明します。
仕入税額控除のタイミング
短期前払費用は、支出した日の属する課税期間において仕入税額控除を適用します。例えばリース料を翌期1年分、税込132,000円を支払い、短期前払費用として損金とした場合は、132,000円の消費税12,000円を全額、支払した期の消費税の納税金額から控除することができます。
インボイス制度適用後の短期前払費用の扱い
2023年10月1日からインボイス制度が開始され、原則として適格請求書(インボイス)がないと、仕入税額控除がとれなくなります。
短期前払費用に関する消費税は、現行制度と同様に支出した期に仕入税額控除をとることができる点は変更ありません。ただし2023年10月1日以後は他の費用と同様に、仕入税額控除をとるためには、原則として適格請求書(インボイス)の保存が必要になります。
もし支出したのが2023年10月1日より前であった場合は、適格請求書(インボイス)がなくとも、現行制度の区分記載請求書等保存方式により仕入税額控除をとることができます。もし9月に翌月から1年間のリース料を支払った場合、売り手の売上計上は2023年10月1日以後、つまりインボイス制度開始以後になりますが、買い手が2023年10月1日より前に短期前払費用を適用して課税仕入を計上していれば、適格請求書(インボイス)がなくても仕入税額控除をとることができます。
国税庁公表の「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」の問38、問96も参考にしてみてください。
まとめ
以上、短期前払費用の特例の概要と、法人税および消費税の取り扱いを紹介しました。節税対策のひとつとして検討されることの多い制度ですが、等質等量でないもの、収益との対応が必要なもの、重要性の原則を逸脱したあからさまなものなど、対象外となるケースも多くあります。適用する際には対象であるかどうかをよく検討しましょう。また、節税という面だけでなく、会計処理の簡素化という効果もあります。資金繰りに注意した上で、節税以外のメリットにも目を向けてみるのもよいのではないでしょうか。
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