インボイス制度の変更点 | 令和5年度税制改正大綱

令和5年度税制改正大綱

2022年12月16日、令和5年度税制改正大綱が公表されました。これから国会に提出されるものであり、このままの内容で成立するかは確定ではありません。しかしインボイス制度については適用開始日が迫っており、重要な判断をともなう点も多いことから、早いうちから方向性として理解しておく必要があるのではないでしょうか。

このコラムでは、令和5年度税制改正大綱の中でもインボイス制度に関係する部分をご紹介します。今回の大綱で新しく出てきた内容は、主に以下の4点です。それぞれ内容を確認し、今後の対応をどうするか考えていきましょう。

  • 小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(案)
  • 中小事業者の少額取引に係る事務負担の軽減措置(案)
  • 返還インボイスの交付義務の見直し(案)
  • 適格請求書発行事業者登録制度の見直し(案)

なお、インボイス制度の基本的な概要については、コラム「インボイス制度とは?いつからはじまるか、必要な準備と対策を解説!」の記事をご参照ください。

 

2割特例~小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(案)

インボイス制度適用にともない、免税事業者が「適格請求書発行事業者、課税事業者」を選択する場合に、消費税額の負担軽減を図る経過措置が盛り込まれました。通称「2割特例」と呼びます。内容をまとめると、以下のとおりです。

【内容】

令和5年10月1日から令和8年9月30日までの属する各課税期間において、インボイス制度適用のために免税事業者が課税事業者となった場合に、納税額を売上税額の2割に軽減する

【税額の計算方法】

事業区分に関わらず、一律でみなし仕入率を80%として計算する簡易課税制度と同じ税額となる。事業区分の選択は必要ない

【経過措置の期間】

3年間。

(令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間)

【対象者】

もともと免税事業者であったが、インボイス制度開始により、適格請求書発行事業者を選択するために消費税の課税事業者となった個人、法人。

【適用方法等】

確定申告書にその旨を付記すればよい。事前の届出は必要なし。2年間の継続適用の縛りはない。

免税事業者が、適格請求書発行事業者となるためのハードルを下げるための措置といえます。

免税事業者が課税事業者になると、以下のような負担が増えます。

  • 消費税の納付義務が生じる(金銭的負担)
  • 消費税の申告義務が生じる(事務負担)
  • 本則課税を採用すると、インボイスの保管などのさらなる事務負担が生じる

この2割特例では、消費税額の金銭的負担を軽減しています。また、申告の必要はありますがインボイスの保管の必要はなく、簡易課税のように事業区分の判別も不要であり、消費税申告の事務処理の軽減も図っています。ただしあくまで3年間の経過措置であることを念頭においておきましょう

なお、納税額が「売上税額の2割」と軽減されてはいますが、状況によっては従来の本則課税または簡易課税で計算した方が、税額が少なくなる場合があります。2割特例は事前の届出が必要ないため、実際の申告時に有利な方法を選択できます

・簡易課税選択届出書を出している→簡易課税 or 2割特例
・簡易課税選択届出書を出していない→本則課税 or 2割特例

本則課税を適用するための事務処理負担を許容できれば、みなし仕入れ率が90%である卸売業「以外」の業種の事業者は、簡易課税の選択届出をせずに「本則課税or2割特例」を選ぶ方が消費税額の負担を軽減できる可能性が高いといえます。

 

少額特例~中小事業者の少額取引に係る事務負担の軽減措置(案)

インボイス制度では、消費税の仕入税額控除を適用する際に「インボイス」の保存が必要になります。支払い時に入手した請求書などの資料が、インボイスかそうでないかを判別した上で、インボイスを保存しておくことは、大きな事務負担の増加です。

この点、インボイス制度への円滑な移行と定着を図るため、通称「少額特例」と呼ばれる以下の制度が盛り込まれました。

【内容】

税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくても「帳簿のみ」で仕入税額控除が認められる

【対象者】

基準期間における課税売上高が1億円以下の事業者。
・特定期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者。

【経過措置の期間】

6年間。

(令和5年10月1日から令和11年9月30日までの課税仕入れ)

簡易課税を選択すれば、そもそもインボイスの有無は関係ありません。しかし、中小企業者でも簡易課税を選択していないケースは多くあります。細かな金額のインボイスまで保存するのは事務負担が大きく、またインボイスが入手できる先で支払いをしようと考えるのも手間がかかるでしょう。1万円未満のインボイスが不要になれば、中小企業者の事務負担を軽減できると考えられます

 

返還インボイスの交付義務の見直し(案)

売上に係る対価の返還等が税込1万円未満の場合は、インボイスの交付義務が免除されます。これはすべての事業者が対象です

具体的には、売上金額が振込手数料を差し引いて支払われた場合の手数料部分などが考えられます。このような細かなケースでインボイスが不要とされ、事務負担が軽減されます。

 

適格請求書発行事業者登録制度の見直し(案)

インボイス制度への準備が進まないケースがあることから、適格請求書発行事業者への登録手続きを柔軟におこなうよう見直しがされました。

・適格請求書発行事業者の登録申請をする場合、課税期間の初日から登録を受ける場合は初日から起算して15日前の日までに申請書を提出しなければならないとされました。現行の1か月よりも短くなります。

・令和5年10月1日後に適格請求書発行事業者の登録を受けようとする免税事業者は「登録希望日」を記載し、そこから登録を受けたものとみなすことになります。登録希望日は提出日から15日以後の日から指定できます。

・令和5年10月1日から適格請求書発行事業者になる場合、原則として令和5年3月31日までに申請書を提出することとされています。もし遅れる場合には「困難な事情」の記載が必要でしたが、記載が不要になりました。

届出の期限については、従来公表されているものも含めてイレギュラーな対応が多くなっています。適格請求書発行事業者の登録を受ける場合、やめる場合、簡易課税の適用を受ける場合など、状況に応じてひとつひとつ、早めに確認しておきましょう。

 

まとめ

以上、インボイス制度に関する令和5年度税制改正大綱の内容をご紹介しました。少しでも負担を減らして、免税事業者をスムーズに適格請求書発行事業者へ移行させたい意図が感じられます。

特に2割特例、少額特例は今までにない内容で、消費税の申告実務に大きな影響を与えると予測されるところです。この軽減措置も考慮して、免税事業者が適格請求書発行事業者、課税事業者になるかどうか、再度検討が必要になるのではないでしょうか。しかし、どちらも期間限定である点を念頭においておきましょう

仙波総合会計事務所では、税務上の判断を始めとしてさまざまなご相談を受け付けております。ご相談は無料でおこなっていただけますので、お気軽にお問い合わせください。